大分県と宮崎県の県境にある、傾山ー祖母山へ。九州一の本格的な縦走路を踏めるということで楽しみにしていた。
公共機関でのアクセスが良くない。フェリー・電車・コミュニティバスを乗り継いでいく。
登山口バス停で既に12時半、車道歩きを終えて登山道に入ったのは13時15分。上畑コースを経て目的地の九折越まで3時間。とはいえ入山がためらわれる位遅い。
電車に乗っていた時にチラと見えた晴れ間はすっかり隠れ灰色の雲に覆われている。上畑コースは日の光が届きにくい谷であることに加えて、うっそうと茂る樹林が一層暗い印象を与え、怖いと感じるほどだった。
谷間歩きは苦手だ。自分の現在地が分かりにくく不安になる。今日は標高400mから1300mまで上げなければならない。相当登ったつもりで700mの看板を見たときはがっかりしたし、日没までに着けるか焦りを覚えた。
そんな中すれ違う人がいるのは救いだった。ほんの4,5人であったが、ルートが間違っていないことを確認できた。
それにしてもこの上畑コースというのは、薄暗い上に倒木が多く、道もわかりにくい悪路であった。道迷い防止の赤テープを探しては登り、倒木を避けて遠回りする。急峻で滑落の恐れがある場所や、渡渉箇所、ロープを使って岩をよじ登る箇所もいくつかあった。すれ違った人たちも苦労しただろう。
林道出合に出て、ようやく少しほっとした。ここから霧が出て見通しは悪いが、尾根道で樹木の密度がぐっと下がって明るくなった。
視界が開ける。九折越に出たときはうれしかった。ちょうど九折越のあたりから秋らしい色合いになっていて、広いテン場の向こうに尖った傾山がうっすら見えていた。
無人小屋に宿泊する。日没は18時、到着は17時前だったからあっという間に暗くなった。急いで水を汲み、食事をとる。
遅い時間に入山するものではないな。焦って余裕がなくなるのを感じた。かなり疲れていて、すぐに眠った。
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まだ暗い早朝、雨が降っているようだった。今日は全行程6時間半ほど、のんびり7時過ぎに起床した。外に出るとタイミングよく傾山が顔を出していたが、朝食をとり出発する8時前には霧が濃くなっていて、祖母山の展望抜群と聞いていた山頂の景色は望むべくもないように見えた。
それでも傾山へ、平坦な道を行く。今思えばこの時が山行でいちばん楽しいところであった。
傾斜はどんどんきつくなり、水をたっぷり含んだ風が強く谷から吹き付けて髪や服を濡らす。山頂に着いても展望は一切なく、足早に小屋に戻った。
小屋で荷物をまとめ、笠松岳に向かう。朝よりも濃い霧の中、落ち葉で踏み後も判然としない道を進む。幾ばくも行かぬうちに尾根筋から外れていることに気づき、無理やり尾根道に戻る。またすぐ、道を見失い、東に進んでいたはずが北の尾根に迷い込んでいた。
これほど簡単に方角を見失うことにゾッとし、地図アプリで慎重に位置を再確認して道に戻る。これ以上進むのは無理と判断し、九折越小屋でもう一泊し、翌日下山することを決めた。この時点で11時過ぎか12時ころ。
上畑ルートを下山に使うのは危険であると思ったので、林道での下りが出来ないかスマホで調べた。21年ごろに通行したブログが出てきた事、登山アプリ上では通行できることになっている事から、通行不可なら引き返すことを前提に、下山路として使うことにした。
暗い小屋のなか、昼寝をしたりスマホでアニメを見たりして暇をつぶす。晩御飯にバターシチューを食べて寝た。
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朝5時過ぎ起床。11時のバスに間に合うよう十分に余裕を持ちつつ日の出を迎えた。6時半出発。やはり濃霧で、1日目に歩いたはずの九折越から林道出合までも一度道を外れてしまった。
7時ごろ、林道を下る。舗装道路でも台風で通行止めになるくらいだから、今から下る、放棄されて幾年も経っているに違いない林道が崩落していないか不安だった。結果として歩行は可能であったものの、標高が高い方ほど荒れており、大きな倒木や落石は当たり前、道路いっぱいに覆いかぶさるように倒れこんだ樹木の下をくぐる箇所、砂礫が山肌から流出して道が寸断されているところもあった。
尖った岩が道全体に広がる悪路ではあるが、上畑コースを下るよりずっと安全で、1時間ほどで三ツ尾登山口に到着、やはり荒れた登山道を下って入山口に戻った。無事下山出来て良かった。
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今回、天候・事前調査・ルート選択など、無理の多い山行であった。大分駅に戻ったころには天気も回復し、少し悔しい気がしないでもないが、笠松山に向かう途中、山行を強行せずに引き返すことが出来たのは収穫であったと思う。
旅情を少しでも取り戻すべく、食事に風呂に美術館を楽しんで、帰りのフェリーに乗り込む。山は残念だったが大分市街は活気があって、総合的には悪くない旅であった。来年こそは天気の良い登山を楽しみたい。
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